谷村新司「谷村新司リサイタル2016 THE SINGER」
2016.4.8(金)国立劇場・大劇場 ライブレポート

谷村新司 CONCERT TOUR 2016 〜アルシラの星〜
2016年9月11日(日) NHKホール

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“ライヴレポート”という言葉をよく使うが、この谷村新司の国立劇場でのライヴのレポートは、正しくはリサイタルレポートだ。
ライヴでもコンサートでもなくリサイタル。特に線引きがあるわけではなく、一人の演奏家がじっくり歌を披露する「独奏会」「独演会」のことをリサイタルというようだ。
どちらかとえばクラシック系やシャンソンシンガーが使う言葉ではあるが、谷村のステージも「独奏会」「独演会」=リサイタルという言い方が似合っていた。
“一期一会”を大切にする谷村ならではの、サービス精神溢れるセットリストとトーク、演出で、客席を優しく柔らかに包み込み、時に熱く盛り上げ、感動を与えてくれた。



谷村新司の恒例となった東京・国立劇場・大劇場でのリサイタル『THE SINGER』が、4月8日から3日間行われ、タイトル通り“歌い手”に徹し、トークもやや控え目?で、懐かしい曲から、このリサイタルで初のゲストとなるKalafinaを迎えての最新曲まで26曲を披露した。
その初日の模様をレポートしたい。
このリサイタルの前に谷村にインタビューした時に「緊張感で一杯の初日、ミスを修正し完璧に近い2日目、完璧だけど声がややザラついてくる3日目、それぞれの日を自分でも楽しみたいし、楽しんで欲しい」と語っていたように、キャリア44年を誇る谷村も、初日はやはり緊張すると言っていたが、その初日のオープニングナンバーは「リメンバー」。
伝統芸能の聖地に作り上げたステージらしく、セリから谷村が優しい笑顔を湛えて登場し、スタート。
2曲目の「走っておいで恋人よ」はアリスのデビュー曲。
ここからは「今はもうだれも」「冬の稲妻」「遠くで汽笛を聞きながら」とアリスの名曲もズラリ揃え、客席と一緒に大合唱だ。



アリスの曲に限らず、全ての曲を原曲とほぼ同じアレンジで聴かせるという、これが最高のサービスだ。
ファンが聴きたい曲を歌うのはもちろん、それを原曲とほぼ同じアレンジでやることで、谷村と共に年を重ねてきたファンは、あの頃の想い出が瞬時に甦ってくる。
それを求めてこのリサイタルに足を運ぶ人も多い。
「あの頃は年間303ステージやった年もあったけど、一年は365日なのにどうやってやってたんだろう?」とまずは笑わせ、
「北海道でやった時は1000人収容の会場なのにお客さんが20人しかいなくて、全員ステージにあげみんなで車座になって歌った」というエピソードに大爆笑が起こり、
名曲を堪能した後の面白トーク=谷村ワールド、に全員が引き込まれいる。



「手紙」をテーマにした「五年目の手紙」「秋止符」をしっとりと歌い上げ、そのまま「旅」をテーマにした曲へ突入した。
北陸新幹線開業キャンペーンソング「北陸ロマン」ではアイドルのコンサートよろしく客席ではペンライトが揺れ、タンゴ調のアレンジの「三都物語」は、旅情をそそり、「いい日旅立ち」は一緒に口ずさんでいるファンが多かった。
そして一部のラストナンバーは「サライ」。この曲も誰もが口ずさめるまさに“国民的”な楽曲で、「昴」といいエバーグリーンな作品を数多く残している、谷村のソングライターとしての才能に改めて驚かされる。
国立劇場ならではの花道を歩き、ファンの近くを通って谷村がステージから去っていった。





20分の休憩をはさんで第2部がスタート。谷村はファンの予想を裏切り、花道の途中に設置されたセリから登場。



大きな歓声で迎えられ、「棘」からスタート。 第2部は「恋」をテーマにしたセットリストが用意され、そのまま「愚かしく美しく」「レストランの片隅で」「秋のホテル」「忘れていいの」「Far away」「DECEMBER SONG」「サテンの薔薇」という大人のラブソングをメドレーで披露した。
ここまでMCなしで時に情熱的に、時にささやくように切なく、そして語るように30分間歌い続け、曲に合わせた照明はまるで映画のワンシーンを思わせる息を飲むような美しい世界観を作り出し、客席は引き込まれていた。
このコーナーに限らず、通常のコンサート会場よりかなり横に広く、奥行きがある独特の形のステージをうまく使った照明の演出は、歌の世界観をより感動的に伝え、客席をうっとりさせていた。





世代を超えたドリームソング「アルシラの星」(3月16日リリース)で谷村とコラボレーションをした女性ボーカルユニットKalafinaも登場し、まずは彼女たちの楽曲「storia」を披露。
3人が声を発した瞬間、劇場内の空気が変わったのが伝わってきた。3声に空気が共鳴し、客席が息を飲む。全ての人が素晴らしいハーモニーに圧倒されていた。
そして、この日のために谷村とKalafinaで準備したというスタンダードナンバーの「DREAM」、この日が初披露となる「アルシラの星」を歌うと、4声が重なる心地よさを堪能でき、余韻の美しさに誰もが酔っていた。
「日本屈指の音の良さ」というこの劇場の“実力”を再認識。

再び谷村一人になり、歌い始めたのは「APOLLO」。
アニメ「大草原の小さな天使ブッシュベイビー」のオープニングソングとして谷村が提供した楽曲で、今まで自身もセルカバーしていなかったという予期せぬ楽曲のプレゼントに、客席からはため息がもれていた。
「流星」に続き「夢をつかみに行く時にこの曲が道を照らしてくれました」という言葉と共に「昴」を披露。しかしこれがクライマックスではなかった。
ラストは「チャンピオン」。アグレッシブなアレンジに客席は総立ちになり、同時にペンライトの赤い光で幻想的な光景に。
谷村の声の低音と高音のコンビネーション、メリハリが素晴らしく、さらに歌を盛り上げる。



アンコールは国立劇場リサイタルの定番「サクラサク」。桜の花びらが舞い降る演出で、「来年も桜の下で会おう」という谷村のメッセージとともにまさに大団円。
誰もが知っている、口ずさめる曲を多く持ち、それを原曲に近いアレンジと素晴らしい表現力で届ける。
そして誰もマネできないその話術でファンの心をつかむ。
67歳で26曲、そのサービス精神に、客席が明るくなって最初に口をついた言葉は「圧巻」だった。

文=田中久勝



セットリスト
<第1部>
1リメンバー
2走っておいで恋人よ
3今はもうだれも
4冬の稲妻
5遠く汽笛を聞きながら
6五年目の手紙
7秋止符
8北陸ロマン
9三都物語
10いい日旅立ち
11サライ

~休憩~

<第2部>
12棘
13愚かしく美しく
14レストランの片隅で
15秋のホテル
16忘れていいの
17Far away
18DECEMBER SONG
19サテンの薔薇
20storia(Kalafina)
21DREAM(谷村×Kalafina)
22アルシラの星(谷村×Kalafina)
23APOLLO
24流星
25昴
26チャンピオン
Encore サクラサク