ミュージカル『オペラ座の怪人』ケン・ヒル版 開幕!

<愛するが故の悲劇>が色鮮やかに描かれた究極のクラシック・ミュージカル。

2024.1.18更新

92年の初来日では、ケン・ヒル版って何?みたいな「?」が飛び交っていたが、今回で7度目の来日。それも6年ぶりというから驚いた。ミュージカルファンには、特に『オペラ座の怪人』ファンの方々にはすっかりお馴染みの作品になったのだろう。18年にジョン・オーウェン=ジョーンズが初めてこのケン・ヒル版でファントムを演じると決まった時、「ケン・ヒル版をやれるチャンスはなかなかないからね、やらない手はないよ」と言っていた、そのくらいコアな作品でもあった。かの巨匠作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーはケン・ヒル版を見て触発され、世界的なメガヒット作『オペラ座の怪人』を生み出したのは有名な話。そんな原点的な作品が日本で長く愛されていることに感動するし、こうして再び観られたことに心から感謝している。ゲネプロの様子をレポートしよう。

客席の前方席の頭上には、巨大なシャンデリア(『オペラ座の怪人』の象徴ですね)。まず幕開きから実にユニークだ。真っ暗な中、ゴーッと不穏な音が響き、バレエガールのジャムが稽古を始める。そして男たちが会話する声。ミュージカルなのに音楽から始まらないとは、挑んでるなぁ!とワクワクしてしまう。

パリ・オペラ座に新支配人リシャールが着任すると、殺人事件が起こるように。リシャールの息子ラウルはコーラスガールのクリスティーン・ダーエと恋人同士だが、ある日、クリスティーンが楽屋で男と会話しているのを聞き、裏切られたと嫉妬。同時に彼女は脅迫状の犯人だと疑われ、首になってしまう。傷ついたクリスティーンは父の墓場へ。追いかけてきたラウルに父が話していた“音楽の天使”が現れるのだと説明。実際に呼び出して見せる…。

次から次へと起きる殺人、怪しい幽霊の影、キャラの立った登場人物たち。目まぐるしくドラマは展開し、飽きさせることがない。そしてこんな脅し方あり?こんな殺し方あり!?みたいな、コメディー風味満載なのがたまらない。軽妙で洒脱。観てて気持ちが重くならないのは、ユーモアのおかげだろう。

音楽の力も大きい。ここでこの曲か!というクラシックの名曲がずらり。ヴェルディ、グノー、オッフェンバック、ドニゼッティ、ウェーバーと、この物語の時代を反映しているそうで、オペレッタに近いものがあるような。何より、これらの曲をしっかり歌いこなせる実力派が揃っているのが気持ちいい。耳に目に至福のときを味わえる、というわけだ。

中でもベン・フォスターは圧巻だ。オーディション番組で『ジーザス・クライスト=スーパースター アリーナ・ツアー』の主役ジーザス役を射止めた、あの艶たっぷりのパワフルな美声は健在。ロイド=ウェバー版とは一味違うファントムに魅せられること請け合い。ファウストを演じるポール・ポッツもさすがオペラの人、気持ち良いテノールをバリバリ聴かせてくれる。クリスティーン役、ニュージーランドの歌姫タラ・アレクサンダーも叙情的なソプラノが印象に残る。

オーケストラピットや客席全体を使う演出に工夫が凝らされ、観ているだけですっかりオペラ座の一員の気持ちに。またペルシャの王子がファントムについて語る場面では、そうそう、ファントムの過去はこうだった!と、ガストン・ルルーの原作を懐かしく思い出した。愛に飢え、とことん嫉妬と狂気に満ちたファントム。だけどそうなる理由ってあるよね…と人間味を感じてしみじみする場面も。

『オペラ座の怪人』の世界を深掘りするために、また日常を離れてその時代のパリ・オペラ座を味わうのも楽しいだろう。観たら必ず、また新たな扉が開くはずだ。

TEXT:三浦真紀  photo:ヒダキトモコ

ミュージカル 『オペラ座の怪人』 ~ケン・ヒル版~
2024年1月17日(水)-28日(日)
東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
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